このブログでは、「なぜこの英文法がこんな意味になるのか」「なぜこんなルールがあるのか」といった英文法の理由について解説しています。
これは、英文法の「理由」そのものを伝えたいというよりも、「理由」を知ることで英文法が丸暗記よりずっと効率よく覚えられるからです。今回は、そもそもなぜ効率よく暗記できるのかを説明します。
(1)記憶はどのように蓄えられているのか
脳には約1000億個の神経細胞があると言われています。
一方、地球上の男の数は35億だそうなので、地球の人口が男女合わせて70億くらいです。
だとすると、人間の脳には、だいたい地球15個分の人口と同じくらいの神経細胞があることになります。
では、記憶はその1個1個の神経細胞に1個ずつ保存されているのでしょうか。
確かにかつてはそのような主張もありました。しかし現在では、神経細胞同士のつながり方(神経回路)そのものが、記憶になっていると考えられています。
この図を見ると、それぞれの記憶は、神経細胞同士のつながり方の違いであるとわかります。

図1 記憶は神経回路に蓄えられる
出典:池谷(2001)
これは、限られた神経細胞で無数の記憶を作り出すための工夫です。仮に10個程度の神経細胞であっても、どういう経路で進むかで見てみると、そのパターンは10個から一気に増えますよね。
しかし、このメカニズムによって、脳は勘違いや記憶違いを起こしているというデメリットもあります。なぜなら、同じ神経細胞を使いまわしているため、その神経細胞を経由する記憶同士が相互作用を起こしてしまうからです。
さて、この神経回路は、神経細胞から神経細胞へと電気信号を送ることでことでつながっています。
その特徴は、既に覚えている記憶では電気信号が強く、十分に覚えられていない記憶では電気信号が弱いということです。
つまり、記憶に深く定着させるには、電気信号を強くする必要があるのです。
では、どうすれば電気信号は強くなるのでしょうか。
(2)電気信号を強くする方法
ここでは電気信号を強くして、記憶に定着させる方法を3つ紹介します。
①繰り返し読んだり、書いたりする
最も一般的な方法です。
時間と労力はかかりますがある程度繰り返すと電気信号が強くなります。
しかし、誰しも新しいことを繰り返し覚えているうちに、初めのころに覚えた内容は忘れてしまったという経験はあるのではないでしょうか。
そもそも繰り返しで覚えるような記憶力(丸暗記)は10歳ぐらいを境に低下すると言われており、中学生以上では「原因→結果」など論理的な理解によって物事を記憶するようになります。確かに暗記にはある程度の繰り返しが必要ですが、なんでもかんでも繰り返しで覚えるというのはあまりにも非効率(しかも苦痛)ですし、大学受験や公務員試験など広範囲にわたる試験で全てを覚えるのは大変です。
②楽しみながら覚える
楽しいことなど感情が生じるような出来事は記憶に残りやすいです。これは扁桃体という感情の処理をする脳部位が「この記憶は覚えておけ!」と指示するからなのですが、その結果、興味のあることだと楽に覚えられるという現象が起きます。
たとえば、エッチなゴロ合わせなんかは妙に頭に残りやすいです。これは扁桃体が「覚えておけ!」と指示しているからなのです。
ただ、確かにこの方法は脳の特性に基づくので効果的ではありますが全ての内容をワクワクしながらを勉強するというのは現実には無理があります。言い換えると、楽しくない内容だと途端に覚えられなくなってしまうため、勉強内容を効率的に覚えられる方法とは言えません。
③「なぜそうなるのか」を考える
「なぜ」を考えることは、原因と結果を関連づける作業です。
たとえば、have toが「~しなければならない」という意味を表すのは、haveの「持っている」とtoの「~すること」が組み合わさって、「~すること(予定)を持っている→(予定として持っているから)~しなければならない」という意味になったからです。
このときhaveが「持っている」、to doが「~すること」だと知っていれば、have toが「~しなければならない」という意味を持つと覚えることは、丸暗記よりずっと楽になります。これは言い換えると、既に覚えているhaveとtoの意味と、新たに覚えるhave toの意味を関連付ける作業です。つまり、have toが「~しなければならない」という意味のになる原因はなんなのかと考え、その理由を知ることで、have toの意味は容易に覚えられるようになります。
そして、これと同じ方法で英文法について考えてみると、今まで丸暗記で覚えていた多くの文法が格段に覚えやすくなるのです。
では、なぜ記憶に残りやすくなるのでしょう。
既に覚えている記憶の回路では、強い電気信号が流れるのと同時に「他の記憶の電気信号を強くするタンパク質」というのものが作られています。既に覚えている記憶と、新たに覚える記憶が関連付けられると、「電気信号を強くするタンパク質」が新たに覚える記憶に流用されて、電気信号が強くなるのです。
同じ理屈で、書いてあることをイラストにまとめることは、既に覚えていることと、あまり覚えられていないことを1つの絵の中で関連付けることであり、これも記憶に残りやすくなります。
逆に言うと、暗記する内容をただ列挙しただけの参考書は、勉強する上で非常に効率の悪い本だということになります。
このことから、このブログでは英文法の知識を「なぜ」でつなげたり、イラストを多用するなどして、可能な限り暗記しやすい説明を目指しています。
【図1の引用元】
池谷裕二 2001 『記憶力を強くする-最新脳科学が語る記憶の仕組みと鍛え方』 講談社